THE NATURAL SHOE STORE

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大地と繋がる靴との出逢い(後編)

DUCKFEET


(前編はこちら)


本当に必要かどうかにシンプルに向き合う、それが一番大事。

Mr. and Mrs.Wiechmannとの出会い
1998
年 冬 Skaerbaek(スカルベック)

 翌年も、自分が本当に身につけたいと思える靴を世界中から見つけてくる旅はまだ続いていた。

 ダックフィート社へ書いた手紙には、小さな靴屋でダックフィートと出会い一目惚れしたこと、日本で是非とも貴方の靴を販売したいことなど、28歳だった自分にできる限りの想いをしたためた。するとオーナーであるMr.ヴィーヒマンから一枚のファクシミリで返信があったのだ。しかし、その返信は期待していたものとはまるで違い、既に日本に2社の販売代理店があり、充分に満足しているから取引はできないと記されていた。にわかに信じられなかった。というのも、日本で販売しているところを見たことがなかったからだ。そして『まだ間に合うかもしれない、駄目でもよいから自分の想いを直接会って伝えたい』と、とにかく一度会って欲しいとファクシミリで送ったところ快諾してもらえた。

 ダックフィートをこの世界に生み出した人にどうしても会いたいという念願が叶う日がついにやってきた。

 行き先は、デンマーク・ユトランド半島の南部にあるBillund(ビルン)。日本でも人気の高い玩具のレゴ本社とレゴランドがあるが、人口は7000人ほどの小さな町だ。

日本からコペンハーゲン経由でBillund空港に到着したのは1998年の真冬、夜11時頃だっただろうか。辺りは一面雪に覆われ、初めて訪れる土地に期待と不安が駆け巡ったのを覚えている。翌朝、Mr.ヴィーヒマンがレゴランドホテルのロビーまで迎えに来てくれる約束になっていた。緊張しながら待っていると、目の前に60歳位の男性が現れた。思わず立ち上がり「Are you Mr. Wiechmann ?」と聞いたところ、「Yes, Claus Wiechmann」と柔らかく微笑んだ。会えたことへの喜びと感謝の気持ちを精一杯伝え、停めてあった彼のVOLVOに乗り込んだ。

道中は平らな田畑と高原が続き、春になれば長閑な田園風景が目の前に広がるだろう。その日は雪と朝の陽射しが混じり合い、それはそれは美しい光景が広がっていた。

1時間ほど走るとダックフィート本社がある町、Skaerbaekへ。比較的起伏があり、湖と小高い丘が連なっており自然豊かな場所だ。そしてついに自宅兼会社という本社に到着。煉瓦造りの建物の中に入ると、たくさんの靴が倉庫の棚に整然と並べられているのが目に入った。

ロンドンの小さな靴屋で出会った靴はここから来ていたのか、その場所に自分が来ているんだという当たり前のことに興奮しながら、いよいよ始まる目の前の交渉に緊張が高まる。小さなショールームに入ると、満面の笑顔で迎えてくれた女性が、コーヒーでいいかしら? と、淹れたてのコーヒーとデニッシュを大きなお皿にたくさん用意して、遠いとこからよく来てくれたわねと話しかけてくれた。長旅を気遣ってくれる優しさ、これから交渉だと意気込んでいたことも忘れてしまうかのようなMrs.ヴィーヒマンの笑顔、そのもてなしに心も緩み、気がつくと椅子に腰掛けて、自分が何者か、ここに来た理由や、これからどうしたいのかを拙い英語で語りかけていた。そしてお互いにしばらく会話を交わしていると、Mr.ヴィーヒマンがおもむろに「分かった、取引しよう」。そして「実は、日本からこんなに遠くまで俺が作った靴を求めてわざわざ来てくれたのはお前が初めてだ」と。

彼が笑顔で、僕を3社目の販売店として認めてくれた瞬間だった。

 今思えば、どこの誰かも分からない28歳の若者に自分の大切な商品を預ける決断をすることは大変なことだったと思う。そして何より嬉しかったのは、Mr.ヴィーヒマンから直々に靴作りへの想いを聞けたこと。

「本当に必要かどうかにシンプルに向き合う、それが一番大事にしていることだ」

靴作りに向き合う時に何度も思考することはその一点だと、靴を撫でながら僕に語りかけてくれた姿が22年経った今でも目に浮かび、大きな財産となっている。その後家族のように食卓を囲み、自分や家族のことを話したりしているうちに、楽しく充実した時間はあっという間に過ぎていった。

 本当に必要なものだけを使って作られた靴。そこには限りある命、自然への敬意、その命を使い靴にしていることへの感謝、この靴と出会うことになるかもしれない人たちへの愛情、全てが込められている。だからこそ時が経つほどにダックフィートの靴は美しくなる。

心から感謝の気持ちをこめて
Mr. and Mrs. Wiechmann 本当にありがとう。

 デンマークはヨーロッパ北部のユトランド半島と407もの島々からなり、約570万人が居住しています。北欧の中でも比較的温暖で雨の多い冬と、涼しい夏が特徴。世界で最も小さな国の一つでありながら市民の生活満足度は高く、国連世界幸福度報告では第1位(2014年)でした。


(前編はこちら)


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