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日々を歩いてvol.2 ~誰のためでもない、自分自身を言葉に(石塚明由子)~

日々を歩いて

 

日々を歩いてvol.2
~誰のためでもない、自分自身を言葉に(石塚明由子)~

何かを握りしめることなく、空高く放つように、彼女は歌う。
閉じ込めていた哀しみや刹那い想い、やわらかな憧れ。そんな、手に取ろうとすると消えてしまいそうな感覚が、いとおしい懐かしい情景とともに思わずからだの奥からこぼれ出る。歌に導かれるようにして露われたそんな感覚さえも、温かく包んで空へと放ってくれるから、石塚さんの音楽は、本当に優しい。

幼い頃から憧れていた、歌うこと。
「そんなに好きなことがあるのに、どうしてやらないの?」
設計デザイン会社に勤めていた20代半ば、突然のパートナーの言葉に、背中を押されるように歩き始めた "歌いながら生きる道"。

以降、20年近くの年月を彼女は歌うことに一心に生きている。

こころを歌にのせて

石塚さんが歌い始めると、人は自然と、音に乗せられたその歌詞へと心を向ける。日々、数多の音が交錯するなか、その言葉にじっと耳を傾けたくなる音楽は一体どれほどあるだろう。

かねてから愛してやまないというジャズやブラジルミュージックは、今も仲間の音楽家たちとライブの場で歌うことも多い。同時に、歳月を重ねる中で、日本語による自身のオリジナル曲をより大切に携えて音楽活動をするようになった。

身近な人の介護や家族の病と向き合う日々を送るなか、自らの「心」と交流するように唄う歌を、石塚さん自身が必要としていたことが一つの転機に。

「唄うこと」は自分が好きな歌、気持ちのいいものを歌うということだけではない、新たな意味を持つようになっていた。

「歌詞を書くことは、自分を癒すということを自らの経験で知りました。自分と向き合って出てくる凝縮された言葉を音楽に乗せると、自身を癒すだけでなく、他の人の心にも伝わるものがあるんです。 

「自分で自分を救えるように。あなた自身を、言葉にしてみて。」

石塚さんが各地で歌詞をつくるワークショップを行うようになって、5年が経つ。ワークショップの参加者には、予め、その日のために石塚さんが作曲をした一つの曲が届けられ、参加者は各々にイメージを膨らませて当日を迎える。ワークショップ当日は、各自が集中して自分だけの一曲の歌詞を書き上げる。


歌詞作りは、自分の心を読むことです。決められた場所、限られた時間。人は追い詰められると本当の自分自身と向き合います。そうして出てくる誰のためでもない自分の言葉は自らを成長させてくれる。私自身、それに随分と救われてきました。私以外にも、自分で自分を救える人がいそうな気がして、それでワークショップをやっています。」



どんな人のどんな言葉も

ワークショップで書き上げた歌詞は、会の最後に石塚さんが唄い、その場の参加者同士で共有し合う。初めて会う人と人が、歌詞を通して本当の自分をさらけ出す。

言葉は、どうしたって未熟だ。言葉にするだけではなかなか手が届かないようにも感じられる、自分のこと、誰かのこと。石塚さんの唄う一つの音楽のうえで、そんな人と人とがお互いを尊び、温かく受けとめ合うようななんとも言えない場が生まれる。

「ワークショップに参加下さる全ての方が、ご自身の中に素晴らしい言葉をもっています。書かれた歌詞はどれも感動的ですが、それをみんなで共有することに、もう一つの感動があるんです。」

石塚さんは、どんな人のどんな言葉も感動的だと迷いなく話す。音楽は言葉を助けてくれる、音楽には、どんな感情も美しく仕上げてくれるミラクルな力がある、と。個人の世界に閉じ込められていた言葉が、彼女の音楽と唄声に委ねられると、不思議な波をもって人と人の心を渡っていく。

「歳を重ねるなかで、自分の表現を一方的に相手に差し出すことではない音楽のかたちを求めるようになりました。相手から引き出されてくるものと共に何かを創造していくことに、喜びを感じるようになったんですね。」

幼いころから大好きだった、歌うこと。
自ら歌を作り、自ら歌いながら歩く道。
その道で、自分だけではない誰かが少なからず影響を受けている。
彼女の吹く風に吹かれて、誰かの歩む日々は確かに悦びのある方へと向かっている。

(2019年1月)

※ザ ナチュラルシューストア神宮前店にて、2019年3月・4月には石塚明由子さんによるライブイベントを、4月には「歌詞をつくるワークショップ」を行います。
詳細はこちらをご覧ください。

『うたい歩いて ~ましこのうた × THE NATURAL SHOE STORE~』
■ 3/21(木・春分の日) ましこのうた演奏会
■ 4/10(水) 歌詞をつくるワークショップ
■ 4/18(水) Closing Live

石塚明由子 Ayuko Ishizuka
___________________
ジャズ&ブラジル系ポップスユニット「 vice versa」のボーカルとして13年間活動後、2013年よりソロ活動をスタート。2015年、WATER WATER CAMELの須藤ヒサシと共に制作した1stソロアルバム「Hello, my sister」をリリース。日々の美しい情景や身近な人とのさよならを描いた陰影のある楽曲を収録。2018年、数年に渡り通い続ける栃木県益子町を題材とした作品「ましこのうたDVD&PHOTOBOOK」に楽曲参加。2013年より「歌詞をつくるワークショップ」を各地で主宰し、心と音楽のつながりを伝える活動をしている。2017年春より、生まれ育った新潟県上越の古い日本家屋にて東京との2拠点生活をスタート。

ヨリミチのコラム

人生の季節」


石塚さんは、自身のHPでこんな言葉を綴っている。
今の自分を人生の季節に例えると…そんな問いかけに対する答えの中で、彼女の足取りはどこまでも前向きだ。

“ 私はもう若くはない。気がつけばこの年齢にきてしまった。
でも、感覚的にはいつだって自分の人生は「夏」な感じがする。

若くないからと言って、ちょっとスピードをゆるめよう、とか
無理をしないでおこう、という発想は全然なし。
私はいつだって「少しの無理」をしていたい。
負荷がかかることや、背伸びすることがしたい。
自分の可能性を知るために、経験したことがないことをしてみたい。

まだまだ成長していたい、と強く思う。

そのために、私には音楽がある。
子供のときからずっと憧れていた「歌う」ということ。
実は歌うことに怖さを感じている。自分の思うように歌えないからだ。
でも、だからって歌うことをやめたりはしない。
今よりももっと素敵な歌が歌いたい。素敵な曲を作りたい。
その気持ちを止めたら私が私でなくなってしまう。

みなさんに感謝をしながら日々前進したい。 ”

石塚明由子HPより一部抜粋(2018.6.19 )
http://ayukoishizuka.com/

歌を始めた頃、歌いたい曲があってもギターを弾けずに歌えなかった。
家族の病や介護を前に心が壊れてしまいそうな時期が続いた。
歳を重ねる中で、どうしようもない疲れに襲われるようになっていた。

だから、ギターを学んだ。
心と交流するように歌詞を紡ぐようになった。
朝、夫とふたり筋肉を鍛える「育筋」習慣を取り入れた。

そうして今、彼女は自らギターを手に、自身や人の心と交流しながら、癒すように歌を歌う。
筋肉の数値は確かに上がり、かつてのような "疲れた女" を脱出しつつある。

出来ない自分を出来る自分に変えていく。
気付けば彼女は、こんなにも溢れる愛を誰かに渡し、こんなにもの多くの愛を周囲の人々から受け取っている。


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