2022.12.01
「一歩先への旅」_自由さを
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日々を歩いて
ザ ナチュラルシューストアの一号店が静岡駅からほど近い紺屋町通りの一角に生まれたのは、2008年のこと。その立ち上げメンバーの一人としてゼロからのお店作りに携わり、以降、今日に至るまで静岡店の店長として店頭に立ち続ける加藤さん。
静岡市葵区に生まれ育ち、小・中・高校時代は人から掛けられる声に応じて、性に合わないと思いながらも持ち前の元気さと運動能力でバスケットボールに精を出した。卒業後は当時好きだった洋服の販売の仕事を選び、数年の後、友人とセレクトショップを立ち上げ、静岡市街に店舗を構えた。
幼い頃から家族や友人と足を運んできた駿府城公園(静岡市) は “庭” のような場所。
生まれた病院、育った家、通っていた学校が駿府城跡のお堀を取り囲む。
「自分のお店を構えていた頃は、レールの無い道を自分で切り開いていくしかなくて、はじめの数年間は本当に苦労しました。限られた資金で、お客様の反応をみながら探るように商品を仕入れるものの、なかなか売上を作れない日々が続いて。3年が経った頃、お店を閉じることを真剣に考えました。」
23歳の時に静岡市街の表通りから一本入った小路に友人と開いたショップで
仕入、販売、媒体制作まですべてを行っていた。
なかなか伸びない売上に思い悩み閉店を考えていた加藤さんに、取引先の担当者が掛けてくれた言葉。それがきっかけで、彼女は一つの転機を迎える。
“ 試すようにしていても、今より上にはいけないよ。
300着売り切るつもり、お店のラックを埋め尽くすぐらいの気持ちで仕入れてごらん。
一度、騙されたと思ってやってみな。 ”
そう言って担当者は彼女を大阪へ連れ出し、飛び切り売り上げの良い店を見せて回ってくれたそう。
自らはじめた自分のお店。
自分で決めた道とはいえ、どんな道をどう歩いていいか導いてくれる人は誰もいない、道半ば。
先行きが見えず立ち往生していた時に掛けられた言葉を、彼女は信じてみることにした。
「出来ていないことに目を向けて原因を探るのは、とても苦しくて続きませんでした。アドバイスを頂いて、自分もやってみようと思える成功例の真似から始めることにしたんです。言い方を変えれば、出来ないことに向き合うことから逃げたのかもしれません。でも私にとっては、失敗と向き合うより、いいなと思うこと、出来そうなこと、小さな成功を見つけて、それを深めていく方が前に進む力になったんですね。」
結果は、担当者の見込んだ通りに。彼女自身の意識と共に商品の売れ方は明らかに変わり、300枚を売り切る覚悟で仕入れた商品は、後に年間1400枚を売るまでになる。自らの店の定番商品を自ら育て、自身のセレクトショップは加藤さんがザ ナチュラルシューストアと出会うまで7年続いた。
「ザ ナチュラルシューストアに入って、思い切り接客に集中出来るようになりました。 仲間と共にお店をゼロからつくっていく日々は、学校に通うように楽しかったですね。」
以降、現在に至るまでの11年間、静岡店の店頭に立ち、店長として多くのお客様とスタッフをお迎えしてきた。
接客、店頭作り、仕入の処理から在庫や売上の管理… 多岐にわたる業務の中で何より「接客が好き」という気持ちは変わらない。加藤さんの元には、かつてのショップ時代から20年近くにわたり通い続けて下さるお客様もいるという。
「当時は高校生だったお客様が、今やお父さん、お母さんになって靴を選びに来て下さることがあります。お店にいらしたお客様同士が、ご友人のように語らう場面もよく生まれます。そうした瞬間は本当に嬉しいですね。“ すべてはお客さまに届けることから” と、高校の流通経済の授業で恩師が繰り返していたことを今も思い出します。お店に訪れて下さる方と、一つ屋根の下、共にお客様を迎える素晴らしい仲間のために、毎日お店へ通っています。」
失敗の原因を探るより
小さな成功と
よかったことの理由を見つけて深めたい。
そうして嬉しいことを膨らませたい。
20代半ば、行く道を左右する人との出会いを機にそう思うようになった加藤さんの通う静岡店には、今日もたくさんの笑顔が行き交い、“靴を介した嬉しいこと” が、日々生まれては膨らんでいる。
お店をつくる仲間やお客様と共に、靴を介して “いいこと” を膨らませる。
刻々と変化する、内と外を取り巻く環境やバイオリズムがある中で、それを繰り返していくために彼女が心の奥で唱えていること。
困ったときの “大丈夫”
安心できる “心配するな”
希望が持てる “何とかなる”
「トンチで有名な一休禅師が、亡くなる前に弟子達に三巻の遺言を残したそうです。もしお寺でどうにもならないほど困ったことがあったら、この三巻の遺言を開けなさいと。一休さんが亡くなって何年か後、お寺にほんとうに困ったことが起こり、弟子たちは遺言書を開けることに。そこに書かれていたのは、一巻目には “大丈夫” 、二巻目には “心配するな” 、三巻目には “何とかなる” だったそうです。」
幼い頃に親戚の叔父さんが繰り返し話してくれたという一休禅師の言葉が、今も見えない奥底から彼女の身体を支えている。
そんな加藤さんが教えてくれた、毎日たのしみにしている瞬間とは、「一日を終えて家の玄関を開けるとき」。
朝、靴を履き、扉を開けて、風を受けながら新しい今日に出逢っていく。一日を終え、いつもの家路を辿る先、玄関を開けた先にある日常が、今日の加藤さんを癒し、また明日の一歩へと向かわせてくれている。
オープン当初から育てている植物は今日も店頭で陽を浴びる。
お店の裏のストックルーム。
脚立の最上段で背伸びをしながら手を伸ばし、在庫の出し入れするのは誰より早い。
「ザ ナチュラルシューストアでの10年の間に、イタリアやドイツなど、海外の展示会や靴の製造元へ出向く機会を頂けたのはとても貴重な経験でした。2011年の東北震災後、スタッフと共に被災地に赴き、編み物をしながら復興に向かう地元のお母さんたちの姿を静岡のお客様にお伝えしたこともとても思い出深いです。」
(2019.5月)