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日々を歩いてvol.8~ワクワクを描いて~(今井茂淑・京子)

日々を歩いて

房総半島の南部に位置する、千葉県は南房総市。
東京から車で2時間弱、東京湾を渡り、南方へ向かった先にある
三方を海に囲まれた土地。

沖を流れる暖かい海流の恩恵を受けた温暖な気候は
花々や果実の栽培に適し、みかんや枇杷の産地でもある。

海と山にほど近く、豊かな生態系のなかにある暮らしに惹かれ、
今井さん夫婦は今から15年前、この土地に住まいを移した。


ふたりの暮らす小さな山の山肌には、
数多の樹木と植物が生い茂り、鳥たちの囀りが空に響く。

10代の頃から手を繋ぎ合う、
東京は世田谷育ちのふたりが築き育てる
日々の営みがここにある。

獣たちも行き交う山の小径と
緑のトンネルが出会う、小ピーク。

南側の斜面に設けられた平地には
風が流れ、注ぐ光は大好きな南の島を思い出す。

ミュージシャンとして精力的に活動していた20歳代、
旅先のアメリカで、大地から沸くように生まれる自由な音楽に圧倒され、
自身のそれまでの音楽活動に小休止を打った。

いつか彼らのような音を奏でたいと、敢えて演奏者から、
打楽器の作り手へと歩みを進めた今井茂淑(しげとし)さん。

30歳を前にして木工を一から学び、家具製作とその修理・修復の経験を重ねた。
独立後は、古い木材を主な素材に家具や照明など、様々な作品を手掛けるようになる。

20代の頃より琥珀アクセサリーのデザイン、制作を行う妻の京子さんとは
中学校からの幼馴染みで、連れ添い合って50年の年月が経つ。

南房総に移る前は互いに工房で制作を行う傍ら、
地元、東京世田谷の地で心動かされた手仕事を集めたギャラリーを営んでいた。

子育てのひと段落した50歳を前にして、ふたりは新たな暮らしを求めて
次なる居場所づくりへと歩み始める。

数々の土地へ足を運び、自身が本当に求める姿を確認しながら
巡る流れの中で出逢う縁に導かれ、
2007年、この地に出会い『free style furniture DEW』 をオープン。

ふたりで築いた「納屋」をイメージした建物には、
古今東西の手仕事と共に、自ら手掛けた家具や装身具(アクセサリー)のほか
愛する本とレコードが並ぶ。

建物の南側に増築した白壁の空間では、
香り高い珈琲と温かなスープで各地より訪れる人を迎えている。

自分自身が心地いい、自分のために今出来ること。

何もない新たな土地を前にして、ふたりが先ず手掛けたのは、
裏山の散歩道へと繋がる小さな「階段」と、暮らしの場所を囲む「柵」だったそう。

どうしようかと立ち止まるとき、踏み出す一歩は
自分自身が心地いい、自分のために今出来ること。

何もないところにも、ひとつの軌跡が次の軌跡を導いて、
歩む道筋がつくられていく。
主役が完璧に描けなくても、出来ることから形にすると
自ずからイメージが立ち上がり、
輪郭の全体像がみえてくる。

そうやって、自分の居場所はつくられていく。

 

キャンバスに描くのは、恋するようなワクワクと心地よさ。

「はじまりの多くは、ミーハーな気持ちなのよ。憧れで描く理想に、ただ突き動かされてきたのね。周囲からは呆れられてばかりでした。今振り返ると、本当にママゴトみたいだったと思うわ。手にした本を開いて飛び込んできた風景や、かつてブラウン管の向こうに見た外国の美しい暮らし… そんなワクワクがすべての原動力でした。私はひとりでは何も決められない性格なんです。夫とふたり、共に現実にしていく過程で、自分が本来何を求めているのかが段々とわかってきたのね。人生って、面白いわね。」

想いをカタチにしていく原動力は、溢れ出るワクワク。

「理由もない感動を原動力に飛び込めば、不安が膨らむ余地なんてないよね。」とふたりは笑う。

京子さんが描く、心奪われた眩しい世界は
茂淑さんの手元で熟されて、輪郭を得るための経路を辿る。

図面を引いて、経験による感覚と情報を集めては、新たな線を引き直す。
線とイメージを擦り合わせては、ふたたび線を引き直す。

キャンバスを前に、ふたりの描く世界はそうして八方へと膨らんでいく。
必要な時間をかけて、より具体的に。より、広がりをもって。

描くのは、恋するようなワクワクと心地よさ。
問題や障害は、現れたとき、共に最善で応じよう。


「破壊と再生を繰り返す自然に身を委ねれば、自然に試されながら、おのずから循環させられていくんです。危機に直面した時にこそ、人は煩悩が外れ、無の中から新たな創造のエネルギーを吐き出していくんだと、日々体感しています。どんなに大変なことがあっても、ここにはそれを上回る素敵なことがあるんだよね。たとえば、星空とかね。」

破壊と共に生まれる果てしない「空っぽ」の中には
光をあつめた新たないのちが既に芽生えている。
自身の内側に起こる破壊と再生をも受け入れて。

だれかが見つける光の粒は、
だれかに形にされていく。
誰のためでもない、自分のいのちの目指す方へと。

「一片の木材を削る毎に、散らばる木片を掃き集め、掃除をします。
その余白に生まれる新しい展開を取り込みながら、全体は更新されていくんです。」

家具も、暮らしも、人生も
留まることなく、そんな風に生まれ、
ふたりの手により今日も育てられている。

(2019年10月)

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『free style furniture DEW』は、2019年秋、台風15号(9/9)、19号(10/12)、21号(10/25)の影響により営業を休業。なぎ倒された山の木々に道が塞がれライフラインが止まるなど、大きな被害を受けつつも、地域の人々、遠方の友人たちの協力と共に、現在日常を取り戻しつつあります。「こんなにも人のご縁を感じたことはありません」と、お二人は仰います。

2019/11/9より、週末のみ営業を再開しています。今後の営業については、下記HPにてご確認ください。

free style furniture DEW
http://fsf-dew.com/
住所:〒294-0812 千葉県南房総市池之内430-4
TEL : 0470-36-1400

 

 


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