2022.12.01
「一歩先への旅」_自由さを
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日々を歩いて
大きな瞳と、エネルギーに満ちた笑顔と語り口が印象的な Vibeke Dissing。
彼女の真っ直ぐな眼差しは、優しさに溢れている。
相手に耳を傾ける時も、自ら言葉を発する時も、
自らが和やかな安心感に包まれていて、
いたっておおらかに、同じ空気で周囲をまるごと包んでしまう。
デンマーク北東部の湾に面した町 Vejle(バイレ)の地で14歳になる娘 Mie と暮らす彼女は、15年前よりデンマークの靴メーカーDuckfeetを担うオーナーでもある。
Vibekeは折りをみて、Mie を連れて旅に出掛ける。
一足の靴が素材から生まれ、履く人の足元に届くまでの行程をたどる、数々の旅。
大地が育む命の恵みを戴くことにはじまって
自然の力と職人たちの手を借りて、恵みは靴の材料に。
それらは裁断、縫製、成型と多くの工程を経て
一足の靴が生まれる。
靴は人々の手を渡り、海を渡り
各地の窓辺から使い手の元へと届けられる。
こうして各地の自然とそこに生きる人々が、
それぞれのはたらきや人生を通じてDuckfeetの一部を担い、繋がり合う。
津々浦々の土地と人とを訪ねる彼女の旅は、
隣国への小旅行もあれば、海と大陸を渡り歩く長旅もある。
1975年、ドイツ人の夫Wiechmannとデンマーク人の妻Ingaの二人が創業したDuckfeetの靴は、自然に根ざした素材と、シンプルで上質なものづくりの在り方や姿は、70年代の北欧の人々に愛され、愛用者は次第に国境を越えていった。
創業から約30年経った2004年、少し年老いた創業者夫婦から、未来への繋ぎ手としてDuckfeetを託されたのがVibekeだった。
時の流れに伴う環境の変化に応じながらも、自然にも、暮らしにも必要以上に負荷をかけないあり方を貫き、流行の波に乗ることからは一定の距離を保つ。毎年多数の新作が生まれては消えてゆくめまぐるしい世界で、定番のシンプルな靴を作り続けてきたDuckfeet。
Vibekeは生まれ育った家族の営むフットウェアショップで、他にはないデザインと品質で際立つ靴として、幼い頃より馴染みがあった。
-夫婦はなぜあなたにDuckfeetを託されたのでしょう?
望む暮らしやビジネスの捉え方を含めて、
Duckfeetを取り巻く未来の展望を共有できたことでしょうか。
オープンで真っ直ぐな私の性格を好んでくれた
ということも、あるかもしれませんね。
精神性は獲得するものではなく、それに値するかということ
そして真実とは、何をこの目で見ているかということ。
人生を歩みながら、教えてもらったことです。
私はDuckfeetのような正直なブランドを他に知りません。
その正直さに、私自身惚れ込んでしまったんです。
Duckfeetを運営するのは、自分を入れて家族を含めた4人。
そこに娘の Mie と愛犬 Ricco がいます。
これが私たちにとっての最善のかたちです。
Duckfeetは45年前に夫婦による経営から始まりましたが、
今なお “ヒュッゲ”(*) のある家族経営を続けています。
* hyggelig(ヒュッゲ) : 居心地のよい時間や過ごし方を表すデンマークの言葉。
ダイナミックに動いて販売数を伸ばしながらも、
自らのサイズを “小さく良い状態” に保つことは私にとってとても大切なことです。
ものの作り方、体制、流通、全てにおいて
変化をしつつ、シンプルに保つ。
そして、過去の中に本来のあるべき姿を探して、
既往のものを復刻しながら
新しいものを生み出していきたいと思っています。
デンマークには「(半分空のグラスではなく、)半分満ちたグラスを見よ」
という言葉があります。
素材もスタッフも商品も、すべて “いきもの” 。
そのものに既に備わっているものに目を向けて
更なる “step up” になることを考えます。
物事が思うようにいかない時は、天性の楽観的な性格に救われていますね。
-日々のバランスの取り方を教えてください。
私は天秤座の生まれなんです。
自身の奥深くに備わっているバランス感覚を頼りに、
適切な仕事量とゆとりある時間を。
食べるものや身体を動かすことも心掛けています。
_______
夫婦の手から、Vibekeへ。
変化にしなやかに応じながら、小さな家族経営を続けるDuckfeet。
届ける先が増えても尚、手法を変えることで、自らのあり方に沿った道を取る。
暮らしの場所は、オフィスと目と鼻の先。
Mieの送り迎えも、愛犬Riccoとの散歩も、Duckfeetが届ける大切なことを守り繋ぐことと共にある。
家族であり仲間でもある、スタッフ4人とデンマーク Vejleでの暮らしを愉しむ。
今日も彼女は一足をめぐる旅へと足を運びながら、
津々浦々、訪れる先々の仲間たちと
これまで歩んできた道と、これから共に歩んでいく未来の話を
“ヒュッゲ” のある時間と共に重ねている。
(2019年8月)